2006年05月28日

漢方薬の安全性の問題について

 本論は昭和61年発行の『和漢薬』誌400号記念に依頼されて書いた拙論「漢方薬雑感」の一部を殆ど当時の原文のまま転載(一部明らかなミスは修正)。
 ピックアップの関係上、タイトルだけをサイトに相応しいように改変したが、20年前の拙論とは言え、当時は何年間にも渡って漢方薬の原料生薬の安全性、つまり毒性の有無についてあらゆる文献を取り寄せ、出来る限り徹底的な調査を行っていた時期であるだけに、気軽に書いているように見えて相当深いところまで調査が行き届いた成果が反映された拙論となっている。

 それゆえ、内容的にはあくまで医師・薬剤師などの専門家を対象とした内容だけに、一般の方が読まれれば、漢方薬といえどもれっきとした医薬品だけに、一部の漢方薬には注意が必要であることが分り、きっと素人療法は行うべきでないという警鐘にはなることでしょうexclamation&question



漢方薬の安全性の問題について


  芍薬甘草湯について

 この処方の使い方は、筋肉の急迫性攣急と疼痛を目標に様々な疼痛性疾患に応用出来るものですが、一般の配合分量は一日量(芍薬六グラム、甘草六グラム)ということです。
 然し、これでは連用する場合に甘草により浮腫の出る可能性があるのはご承知の通りで、私には何とも不便な処方に思えて仕方ありません。
 これを(芍薬九グラム、甘草三グラム)として、同じ目的で使用しても、効力に変わり無く、連用しても浮腫を起こす可能性は殆ど無くなるのですが、一般用漢方処方の基準が、上記の各六グラムで決められているのは不合理なことに思えるのです。

 座骨神経痛の一タイプには、芍薬甘草湯を中心に、暫くの間、連用する必要がある場合が多いだけに、芍薬は多いめに、甘草は少なめにした方が、浮腫の心配も無く、安心して長期連用が可能なのですが、芍薬に関しては、大量療法しても、元来毒性の微弱な生薬だけに、全く安全です。


  漢方薬の安全性について

 一般に良く使われる生薬の中には、分量に程ほどの注意をしておかなければならないものが、結構多いものです。
 例えば、附子、細辛、山椒、杏仁、桃仁、麻黄。人参等です。

附子(ぶし)」については、今更私が言うことも無いでしょうが、「細辛(さいしん)」については、小青竜湯など、繁用処方に含まれるものだけに、細心の注意をしておく必要があります。

 中国では昔から、細辛を粉末で用いるのに、一銭(約三グラム)を越えてはならない。多すぎた場合は悶死してしまう、とて戒めていました。

 とは言え、これは単味で、しかも粉末での使用時の注意で、処方中の一味として煎じる場合には、証を誤らない限り不安はなく、現実には中国においては、必要に応じて稀には十グラム前後まで使用されています。
 それでも日本においては、決して真似をすべきではないと思います。
 中国において、虫歯の疼痛に細辛単味煎じ薬十五グラムを三回に分けて服用した人が、激しい副作用を起こしている事例がありますので、用量は多すぎないよう細心の注意は必要です。(文献1)

 「山椒」は、香辛料・薬味として食品分野でも大変馴染みのあるものですが、附子の安全な代用品としても通用する部分もあると愚考しています。
 しかし、食品で使われるくらいのものだから、と思って油断して使用分量を誤れば、毒性があるだけに、矢張り、薬としての注意は必要な生薬です。

 「杏仁、桃仁」は青酸配糖体のアミグダリンを含有するものだけに、注意が必要です。
 中医学では一日量に九〜十二グラムも使用していますが、大概の場合、毒性を減じる修治を施して使用している訳ですから、日本の様に単純な乾燥品を無修治のままで使用する場合には、決して真似をすべきではないと思います。
 たとえば、小児の場合、十数粒(四グラム前後)をそのまま食べてしまった場合、生命に危険性を伴う毒性が発現しますし(致死量)、たとえ煎じた場合でも大人で、二十グラム前後を煎じて一度に服用すると、生命に危険があり殆ど致死量です。
 但し、青酸は致死量の三分の一以内であれば問題はないとも言われ(文献2)、蓄積作用も全くないものです。
 従って、安全量を守る限りは長期間連用しても、適切な弁証論治に基づいて投与する限りは全く問題がありません。

 翻って、巷間の一部で人気のある「枇杷葉」についても、微量の青酸配糖体を含むだけに、無闇な大量飲用は慎むべきでしょう。
 今のところ、枇杷葉の平均的な青酸配糖体の含有量を研究した資料を発見出来ずにいますが、おおよその数値だけでも知りたいものです。

 「麻黄(まおう)」に関しては今更、言うまでもない事でしょうが、繁用生薬だけに、証を誤らないよう、そして分量が過ぎないよう注意が必要です。エフェドリンが主成分でその製剤原料もあるということです。

 「人参」は、通称「朝鮮人参」のことですが、医薬品としてだけでなく健康食品としても昔から人気のあるものですが、証を無視した乱用は慎むべきで、少量でも浮腫が生じる人が稀にあります。
 すなわち、朝鮮人参の体内に水分を保持させる作用により、過敏な人では少量でも浮腫を引き起こす場合があり得るわけです。
 また、中国などの文献では、大量に連用したために高熱を発したり、微熱が持続した例などの報告があります。(確実な文献を提示するつもりだったのですが膨大な蔵書に埋もれて紛失?

 近年、「あまちゃづる」が朝鮮人参と成分が共通だとして巷間で騒がれ、神経痛にも良いとて、お防已黄耆湯証の体質の人が、膝関節部の水分貯留と疼痛に両方を併用したために、防已黄耆湯の水に対する効き目を激減させた馬鹿馬鹿しい例がありました。
 あまちゃづるには朝鮮人参と同様、体内に水分を保持させる作用があり、それがアダとなって浮腫を引き起こす場合があるということです。

 その他でも、身近なもので「タラ根皮」なども毒性があり、使用分量には注意が必要です。
 尚、日本のタラ根皮の中国名は「刺老鴉(シロウア)」であり、中国の「楤木(ソウボク)」とは別物です。


      まだまだある漢方薬の安全性に対する注意点

 中国では一般に日本で使用する三〜五倍の分量のようですが、ご承知のように、中国の硬水での成分抽出度と、日本の水の軟水での抽出度の違いも考慮する必要があるようです。
 そして、とりわけ気になる事は、近年日本では一般医師の保険でのインスタント漢方の使用が増えて来ましたが、それ等を服用しながらも病状が思わしくない為に、我々の所に本格的な漢方薬を求めてやって来られるケースが増えていることです。

 この場合、注意しておかなければならない事は、一般のお医者さんから頂いている漢方薬に前記の生薬、とりわけ附子、細辛、杏仁、桃仁、麻黄が入った処方であった時、こちらでは決して二重になるような漢方薬を渡すべきではない、ということです。

 また、患者さんの中には漢方薬は安全だからという過信から、決められた分量を勝手に増やして、多い目に服用してみたり、一日分を三回に分けるのが面倒だからと、一回にまとめ飲みするような愚行を、平気で犯しかねない人がいる、ということです。

 一部の生薬に毒性があるからと言っても、日本の常用量を守る限りは全く安全この上ないのが漢方薬の特長でもあり、証が合う限りは何十年の長きに渡って服用し続けても、身体に益する事はあっても、決して害することがないのが漢方薬の特長でもあります。
 その利点をフルに活かす為にも、単味生薬の毒性の有無及び、その単味生薬の最大安全量の確実なところを十分に調べておくべきでしょう。

 一般の飲食物でさえ、多くのもの(例えば、銀杏、ピーナッツ、アルコール、フグなど)、一品を一時に大量に食すれば急性毒性により、とりわけ銀杏やアルコールなどでは命を奪い兼ねないことに留意すべきです。
 食品とされるものでさえこのような事実を考えれば、漢方薬処方およびそれを構成する各々の単味生薬にも、同じことが言えて当然でしょう。


(文献1)「中葯学」山東科学技術出版社
     「中葯研究文献適用1962-1974」科学出版社
(文献2)小島喜久男著「気管支喘息」漢方の臨床誌 第十五巻・11月号12月号合併(漢方治療特集)
posted by ヒゲ爺 at 17:42| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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